シュガー&スパイス
「菜帆さぁー……」
「へ?」
溜息まじりの声に、ハッと千秋を見上げた。
「俺、調子乗っちゃうよ?」
低く掠れた声が鼓膜をくすぐる。
二重の綺麗なガラス玉がユラユラ揺れて。
その瞳の中にまるごと飲みこまれちゃいそう。
千秋、あたし……
口を開きかけたその時、タイミングを計ったようにガラガラと個室の扉が開いた。
「――こちらへどうぞぉ」
そう言って他のお客さんをシャンプー台へ促すナガシマさんが目に入る。
そこで千秋はあたしの髪にお湯をかけ始めた。
ドキンドキン
なんだろうこの感じ。
ふわふわする。
細い線の上に立っている。
そんな危うい感じ。
でも嫌じゃない。
むしろ、心地よくてくすぐったいような感覚だ……。
千秋の長くて華奢な指が、あたしの髪を優しく撫でる。
隣にナガシマさんがいて、他のお客さんもいるのに……。
千秋のそのシャンプーは。
気持ちよくて。
まるで
優しく愛撫されてるようだった。
……もっと。
もっと……触れて欲しい。
心の中で溢れ来るその感情に、もう目を逸らせないよ。