シュガー&スパイス

「適当に座ってて」

「……う、うん」


そう言ってバスルームに消えて行った背中を目で追って、それからソファとテーブルの間にオズオズと腰を落とした。

この部屋に入るのは2度目だけど、前はこんなに意識してなかったから……。
ダメだと思ってても改めて、ジロジロ見ちゃう。

どう見ても独りで寝るには大きなダブルのローベッド。
ソファと、テレビ、あとはアンティークの木製のテーブル。
それから壁にはいくつかの帽子がかかっていた。

こざっぱりした部屋。

ベッドの脇の、チェストの上には煙草の箱が転がっていた。


見た事ないな、千秋が煙草吸う姿……。
いつ、すいたくなるのかな……。


そんなことをぼんやりと考えていると、リビングに戻った千秋がソファにドサッと座った。


「何飲む? ビールしかないんだけど」


えってゆか、そこに座るの?
なんで~?

勝手にテーブル挟んで向かい側に座ると思っていただけに、心臓が飛び跳ねた。

斜め後ろに感じる気配。
意識しすぎかもしれないけど、視線をビリビリ感じる場所だ。


「あ、お構いなく」

「んじゃ、ビールでいいよね」


コトっとあたしの前に冷えたビールが差し出された。

でもあたし、実はここに来る前にちょっとでけ飲んでました。
とは言えず、差し出されたそれを大人しく受け取った。
すぐそばでカシュッと音がして、あたしが開けるのを待っている。

慌ててプルトップを持ち上げて、千秋に向かって差し出した。



「改めて。誕生日、おめでとう!」


カツン

小さな音を立てて、ふたつの缶がぶつかった。



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