シュガー&スパイス
ちょっと待って。
空き缶の音で聞き取れなかった。
「え?」
手を止めて、千秋を見上げる。
あたしのやる事を見ていたのか、頬杖を付いたままの千秋と視線が合う。
洗いたての流れる髪の奥に、いつになく真剣なその瞳が、真っ直ぐにあたしを見つめていて。
案の定。
それに過剰反応した体が、魔法にかかったみたいに固まった。
ドクンドクンって鼓膜を叩く心臓の音。
まるで鐘がなるみたいに、あたしの身体はジリジリと熱くなる。
「……なんて?」
そう言った声は、自分でも驚くほど小さくて。
でも、ふたりきりのこの部屋には、恥ずかしいくらいよく響いた。
コチ コチ
コチ コチ
時計の針が時間を刻む。
それはあたしの心音とリンクして。
目眩さえ感じた。
「プレゼント。俺アンタがイイ」
ああ、やっぱり。
さっき、サラッとしすぎてわかんなかった。
……千秋。
また冗談って笑うの?
妬けちゃうくらい整った顔を支えていた手が、結んだあたしの髪に触れる。
にわかに近づく距離。
彼の瞳の中に映るあたし。
「菜帆を、俺にちょーだい?」
予感はしてた。
こうなるって事……。
うんん、違う。
予感じゃない。
期待、してたんだ……あたし。
もう、冗談って言ったら許さないんだから。