シュガー&スパイス

ジャラ


目の前には、確かに見覚えのある鍵。


一瞬ポカンとして、慌ててその手から鍵を受け取った。


「あ、ありがとうございます」


ペコっと頭を下げて、踵を返すようにアパートへ向かう。
小走りに。


失礼だったかな……。
親切でしてくれたことなのに。

でも、怖いんだもん!
いきなり背後に立ってられて、すっごく怖かったんだもん~!


あ、あたしがここに住んでるの、バレないようにしなきゃ。

とか!
そんなことを考えながら、せっかく見えていたアパートを通り過ぎた。


でも。
そんなあたしの背中に届いたのは、予想外のものだった。




「……仲岡、菜帆さんですよね?」



ぎゃあ!

なんであたしの名前知ってるの?
これは、完璧ストーカー……



「あの、篠宮千秋をご存知ですか?」



へ? ち、千秋?



止まった足。

恐る恐る振り返る。


そこには、オレンジの街頭に照らされた幼さの残る、青年が立っていた。


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