シュガー&スパイス
カツンと音がして、艶のある物のよさそうな革靴が目に入った。
この人……なに?
一歩、また一歩と歩み寄る彼を警戒しつつ、その顔を見上げた。
品の漂う短くカットされた髪。
それはたぶん黒。
オレンジのライトに照らされて、端正な顔立ちが露わになった。
ピシッとしたスーツに身を包み、彼が歩くたびに胸元のネクタイピンがキラキラと反射した。
「突然押かけてすみません。家にも寄ったんですが不在だったもので」
言葉づかいも丁寧。
そんな彼に、あたしの警戒心も和らいだ。
「いくら連絡しても電話にもでないし、彼はどこで働いているのか、あなたならご存知ですよね?」
「えっ」
そ、そりゃあ知ってるけど……。
でも、なぜそれをあなたが?
見ず知らずの人に、千秋の事を教えるほど、あたしはバカじゃないんだから。
「そういう事は、本人に直接聞いてください」
「……そうですよね。あの、彼は201号室には帰ってくるんでしょうか?」
「今日、帰ってくるかはわかりませんけど」
しゅーん
まさにそんな感じ。
すっかりうな垂れてしまった図体ばかり大きな彼。
大丈夫?
あたし、もう行ってもいいのかな?
帰ってお風呂に入りたいんだってば。
その背中に向かって、声をかけた。
「あのぉ、」
「でしたらっ」
ビクっ
振りかぶってあたしの声を遮った彼は、とんでもない事を言い出した。
「でしたら、帰ってくるまで。それまで待たせてもらえませんか?」
「……」
はいいいい!!!?