シュガー&スパイス
ハラリ。
その時、頬に何かがかかり一生懸命やった髪が、千秋の手によって解かれた事に気付く。
ちょっと!
ガバッと顔を上げると、千秋は素知らぬ顔で「ん?」なんて首を傾げた。
それから慣れた手つきで、鎖骨までの髪をハーフアップにすると、なにやら耳の上でクルリとまとめている。
『なにしてるの』と言おうとして、そのまま飲みこんだ言葉が、今度は頭の中をグルグル回りだす。
ほどなくして千秋はあたしの前に立つと「いーよ」って言って目を細めた。
「……あの、」
意味が……。
怪訝そうにするあたしを見て、薄く微笑んでいた千秋の顔がイジワルなものに変わった。
「他のヤツにうなじ見せるの禁止」
は?
なに、それ。
口をポカーンと開けたまま、千秋を見上げてしまう。
たった、それだけの理由で?
それこそ訳わかんないんだけど……。
呆気にとられたままのあたしに、千秋は極上の笑みを零す。
前は、アップにしろって言ってたくせに。
ほんと、この人って……。
「ふふ」
なんだかおかしくて、思わず吹き出してしまう。
「なに笑ってんの」
照れくさそうに目を細める千秋は、光沢のあるブルーのネクタイをキュッと締めた。
「だって……」
だってそれってただの独占欲でしょ?
千秋がそんなふうにあたしを想ってくれるなんて、嬉しいんだもん。