シュガー&スパイス

それからすぐに、千秋の迎えの車がアパートの前に到着した。
艶やかな黒塗りの専用車。
古びたこの建物には、不釣り合いだ。


運転手が、丁寧な仕草で後部座席のドアを開けて千秋が乗り込むのを待っている。


……すごい。

そこで改めて気づく。
この人は、本当はここでこうしてる人じゃないんだって事。

でも。
千秋には千秋の夢がある。

以前話してくれた、自分の道は自分で決めるって言葉を思い出していた。


コツコツ


千秋の靴音が、やけに耳に付く。


きれいにセットされた黒い髪。
えりあしがあちこちに跳ねていて、あたしの位置からも首筋が見えた。

ちょっとだけなで肩だけど、ピンと伸びた背中。
あたしの前を行く彼のその背中が、まるで知らない人みたいだ。


「……菜帆」


千秋は車に乗り込もうと、そのドアに手をかけてそのまま立ち止まった。





それからゆっくりと顔を上げた。

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