シュガー&スパイス

「はい」と小さくうなずくと、彼女はスッと右手を挙げた。




その手の先を追うと、フロアの一角にエレベーターが見える。



「途中24階でお乗り換えがございますので、ご注意ください。 割烹は最上階の53階になります。こちらがカードでございます」


か、カード?


差し出されたそれを恐る恐る受け取る。


「あの……」


カードから顔を上げると、ニコリと微笑んだその人は「24階です。お間違えありませんように」と念を押した。


あたしは黙って頭を下げると、示されたエレベーターに向かった。


でも、なんであたしの名前知ってたのかな?


エレベーターを待つ間、振り返ってみても、何事もなかったかのようにジッとそこに座る女の人が見えた。



もしかして、VIPしか行けないってあれかな?
一見様お断りってやつ?


モヤモヤと考えてるうちにエレベーターがとまり、そそくさと乗り込んだ。
このエレベーターはどうも30階までしかいかないようだ。

あたしは言われた通りに24階を押す。

乗り換えて、エレベーターで渡されたカードを使った。

このカードがないと、割烹へもたどり着けないらしい。




「いらっしゃいませ。ご予約のお名前は」


エレベーターを降りるとすぐに、声をかけられた。

ここでもぉ?

ビクビクしていると、着物を着た女の人の向こう側に、見覚えのある顔を見つけた。



あれは……。



「直哉くん……?」







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