シュガー&スパイス
千秋と一緒にお店から出てきたひとり。
恰幅のいい中年の男性は……。
「父さん……」
直哉君はそうつぶやいて、ゆるりと向き直った。
まるで、あたしを隠すように。
その人に、あたしは見覚えがなかった。
前にあのパーティで挨拶していた人とは別の人だ。
この人が……直哉君のお父さん。
直哉君を見下ろすその人の表情は穏やかではない。
眉間にグッとシワを寄せて、直哉君……ではなくあたしに視線を注いでいる。
「お前は……その人は誰だ?」
ビクっ!
来た。その質問っ!
「仲岡さんだよ、父さん」
「仲岡……?」
考えるように宙を仰いで、そのままあたしを睨む。
目つき悪っ!
この人、ほんとに直哉君のお父さん?
たれ目の彼には全然似てないんですけど……!
きっと物凄く不愉快だろうな。
だってあたしは、この人にとってきっと邪魔な存在……。
―――でも。
「……そうか。君が仲岡菜帆さん」
お父さんから発せられた言葉は、あたしが想像していたどんなものよりも、優しかった。