シュガー&スパイス
まるで肩透かし。
ポカンとして直哉君の背中の影から顔を出した。
「……初めまして。すみません、こんなところまで押しかけて。でも、」
「菜帆さん」
あたしの言葉を遮るように、お父さんは低い声で言った。
思わず口ごもると、チラリと後ろを振り返る。
その視線の先を追う。
でも、そこには誰もいなくて。
静けさを取り戻したお店の入り口があった。
千秋も、その婚約者もすでにエレベーターで去った後のようだ。
お父さんはそれを確認すると、またあたしに視線を戻した。
そして、穏やかに優しく微笑むと
とても残酷な言葉を投げた。
「千秋を、諦めてくれませんか」
……ああ、やっぱり。
そう言われるの覚悟で、あたしここに来た。
だから、彼の言った言葉は、ストンと胸の中に落ちてきた。
諦めるなんて、そんな事あたしヤダ。
だって、千秋はあたしに『約束』をしてくれた。
今日、きっとあたし達はあの教会で会える。
ふたりがそう願えば。
だから、まだ諦めたくないよ。
でも。
そう思っているあたしに、お父さんはさらに続けた。