シュガー&スパイス

ポーチを持って洗面台に向かう。

電気がついて、パッと照らされたあたしは、情けないほど泣きはらした顔をしていた。

目の下には、マスカラが落ちて真っ黒。
口紅も取れちゃって……

あーあ。こんなんじゃ、もう誰も相手にしてくれそうにないや。


自嘲気味に笑って、ヘアピンを取ろうと髪をすいた。


「……」




『俺以外に、うなじ見せるの禁止』

耳元でそう囁かれてる。
そんな気がした。

鏡越しに映るあたしの隣には、今千秋がいて極上の笑みを零す。


あたしの手に触れて、華奢でゴツゴツした指が、妖艶に髪を絡め取った。



「なによ……」


そうまでしてあたしの心をかき乱すの?


…………千秋。



……。

ガチャガチャ

ティッシュで目の下のマスカラを綺麗にふき取る。
ポーチの中からフェイスパウダーとリップを取り出した。



『あの教会で』


そう言った千秋。

行かなくちゃ……。


鏡の中に自分をもう一度確かめて、あたしは部屋を飛び出した。





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