シュガー&スパイス


「す、すて、捨ててって……」


思いっきりどもってるあたしなんかお構いなしで、千秋はすっきりとした顔をしている。

「直哉は、俺がこうする事を望んでたし」

そして、いつもの極上の笑顔でこう言ったんだ。



「俺には、こうして待ってくれてる人がいる。
なにもなくても、また一から始めればいいさ」

「……」

「物語は、終わりなんかじゃない」


物語……?
それって……。

まさか……



「千秋……」




茫然としたまま、その名前を呼ぶと、まるで少年のような目をしてクイっと口角を上げた。



「何度も何度も寄り道をした王子様は
ようやくお姫様の元へ帰る事が出来ました。ってね」




うそ……じゃあ、やっぱり?

やっぱり、あの時の男の子は……


「――千秋、だったの?」

「思い出すのおせぇーよ。俺なんかすぐわかったのに」


まるで拗ねたみたいに、ちょっとだけ唇を尖らせた千秋。



なんで……なんで……


「だったらすぐに教えてくれればよかったのにっ。
あたし、あたし……ずっと夢まで見て待ってたんだよ?」

「菜帆には彼氏いたし? 俺なんか超警戒されてたし」

「それはっだって最初が最初で……。ち、千秋が早く迎えに来ないからでしょ?」


って、八つ当たりだよぉ~

こんな事が言いたいんじゃない。

もっと、もっと他にあるでしょ?


どうしてこんな時まであたしは意地っ張りなの……。



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