シュガー&スパイス
「すぐに片づけますんで。えー……と、仲岡さん?」
「え? ああ、いえ、いいんです。 ゆっくり片づけて下さいね。それじゃ」
別人かと思った……。
そのくらい、彼は人懐っこそうな笑顔を見せたんだ。
“ゆっくり片づけて”なんて思ってもない事を……。
ああ、あたしってほんとバカ!
「はああ」
彼に背を向けて、アパートの階段を下りながら、大きくため息をつた。
「あら、菜帆ちゃん。おはよー……ってどうしたの?寝不足?」
今日の青空みたいに清潔感溢れてる管理人さんに、目が眩みそうだ。
……恭子さん、助けて下さい。
隣に越してきた、ただならぬ男になんだか先行きが不安になった。
「菜帆」
駅の改札を出たところで誰かに呼び止められた。
この声は……。
振り返ると、ロータリーで手を上げたあたしの愛おしい人の姿。
「……英司!」