シュガー&スパイス


振り返ると、真っ黒な猫っ毛が目に入った。



この人は……。

あ……お隣の……篠宮さん?





明らかに挙動不審になったその中年の男。
顔が真っ青だ。

そんな男を見下ろす篠宮さんは、怖いくらい冷淡な表情だ。




その時、ちょうどタイミングよく電車があたし達の降りる駅のホームへと滑り込んだ。

それに合わせてたくさんの人と一緒に、男はどこかへ消えてしまった。





「……くそ。 逃げられた」


電車を降りたあたし達。
篠宮さんは、悔しそうに走り去っていく電車を目で追っていた。





「……あの、ありがとうございます」





彼の背中を見上げながら、あたしはペコリと頭を下げた。
朝は気が付かなかったけど、この人こんなに背が高いんだ……。


英司と、そんなに変わらないくらい。



そんな事を思っていると、篠宮さんはなぜかジロリとあたしを見下ろした。







……え?



< 43 / 354 >

この作品をシェア

pagetop