シュガー&スパイス
振り返ると、真っ黒な猫っ毛が目に入った。
この人は……。
あ……お隣の……篠宮さん?
明らかに挙動不審になったその中年の男。
顔が真っ青だ。
そんな男を見下ろす篠宮さんは、怖いくらい冷淡な表情だ。
その時、ちょうどタイミングよく電車があたし達の降りる駅のホームへと滑り込んだ。
それに合わせてたくさんの人と一緒に、男はどこかへ消えてしまった。
「……くそ。 逃げられた」
電車を降りたあたし達。
篠宮さんは、悔しそうに走り去っていく電車を目で追っていた。
「……あの、ありがとうございます」
彼の背中を見上げながら、あたしはペコリと頭を下げた。
朝は気が付かなかったけど、この人こんなに背が高いんだ……。
英司と、そんなに変わらないくらい。
そんな事を思っていると、篠宮さんはなぜかジロリとあたしを見下ろした。
……え?