シュガー&スパイス


「……“ありがとう”じゃねーよ。 もっと危機感もったら? ああ言うのは野放しにしといたらもっとエスカレートするっつの」

「え、あ……はい。すみません……」




忌々しそうに、思い切り眉間にシワを寄せた彼に、思わずビクリと震えてしまった。



……って!
普通、痴漢にあってた女の子には、まず『大丈夫』って言葉が先なんじゃないの?



なんであなたが不機嫌なわけ?



あたしがムッとした事に気付いた彼は
バツが悪そうにワックスで無造作に整えられた後ろ髪をクシャリと持ち上げた。




「あー……と。 せっかくなんで、一緒に帰りません?」

「え?」




首を傾げたあたしを、まるで叱られた子供みたいな顔で覗き込む。
その表情に、思わず胸がドキリと波打った。




「……そ、そうですね」



なんだかドギマギしてしまって。
それは、昨日の夜の事を思い出してしまったからなのか……。



彼の顔を直視できなくなってしまった。

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