シュガー&スパイス
真っ直ぐにこっちを見てる千秋と、視線がぶつかった。
……え?
「……あの……」
「いいなー、デート」
あたしの言葉を遮るようにそう言って、千秋はコトリと首を傾げて笑った。
「行ってらっしゃーい」
顔の横で手をワキワキと振って見せた千秋。
「?……行ってきます……」
ほんとよくわかんない人……。
千秋と恭子さんに背を向けた。
でも、なぜか胸がザワザワする。
背中に痛いほどの視線を感じて。
引き寄せられるように、立ち止まってしまった。
「……」
その時、ふわりと鼻をかすめた甘い蜜のような香りにふと顔を上げると、髪の長い女の子とすれ違った。
「あ、コウくーん」
仔犬のように、嬉しそうな足音が聞こえた。
強い香りは苦手。
あたしは、立ち止まっていた自分の足を再び駅へ向けた。