シュガー&スパイス



何よ、自分だってデートなんじゃない。
しかも、なんでコウなんて……。
それとも『千秋』って方がニセモノなの?


ほんと、何者?







「はあ……」


何度目かの溜息をついて、窓から景色をそっと眺めた。

英司のマンションは、会社を挟んであたしの家とは反対にあった。
大きな高層マンションの15階の一室。

ここからの夜景は格別だった。
エリート商社マンともなると、こんな部屋に住めるんだ。

会社から有望されてると、違うなっていつも感心してたんだ。



――ガチャ


あ!


ドアが開く音で、あたしは慌てて玄関に向かった。



「おかえり、英司」

「ただいま」



8時をまわって、ようやく帰ってきた英司。
玄関で出迎えたあたしを見て、英司は目じりを下げて笑った。



きゅーん……。

やっぱり英司だなぁ……。この笑顔はあたしの心のビタミンだよ。



「お疲れ様。 仕事大変だった?」



英司のスーツを受け取りながら、あたしはそう聞いてみる。

少しだけ疲れた様子の英司。


英司はネクタイを緩めながら「はは」って笑った。

そしてその手であたしの髪に触れて、そっと耳元に唇を寄せる。


わわっ

ピクッと体が小さく反応してしまう。
思わず固まったあたしに、英司は甘美な魔法をかける。

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