シュガー&スパイス
「な、なにって、あなたが部屋の前で話し込んでるから……」
「だからずっと盗み聞きしてたんだ」
……げ。 あたしがいる事、気付いてたの?
「べ、別に聞きたくて聞いてた訳じゃ」
「……ふーん」
慌てて言い訳するあたしを見て、千秋は疑いの視線を向けてきた。
サーッと血の気が引く気がして、あたしは千秋をすり抜けて鞄に手を突っ込んだ。
「てゆか、聞かれちゃまずい事ならこんなとこで話してないでよね」
あーもう、なに動転してんのあたし。
たぶん熱のせいで少し気持ちが高ぶってんだ。
いつもならすぐ見つかる鍵が、今日に限って見当たらない。
「だいたいコウ君ってなんなの? って……あ、そっか。源氏名ってやつ?」
源氏名なら、みんなお客さんか……。
なんて勝手に納得。
「菜帆」
ドアの前に立って、鍵を探していたあたしの手首がいきなり掴まれた。
「な、なにす……」
驚いて、ガバッて顔を上げたのと同時に、千秋が手を掴んだままあたしを覗き込んだ。
……。