シュガー&スパイス
あたしの目の前には倫子、ただ1人。
周りには他の社員もいるけど……
でも、今の声はあたしの背後から……。
「……!」
ガバッと振り返ると、ビシッと決め込んだスーツ姿の英司が立っていた。
サーッと血の気が引くのを感じて、思わず倫子の顔を見つめた。
一体どのあたりから話を聞かれていたのか……。
倫子は眉間にシワを寄せて、肩をすくめて見せた。
え、なにそれ?
まさか最初から聞かれてた?
「あ……佐伯さん。 お昼に会社にいるなんて、珍しいですね」
平静を装って、慌てて笑顔を作る。
会社で、あたし達の関係を知っているのは、あくまで倫子ただ1人。
だから、あたしと英司は、もと上司を部下の関係だ。
「まあね。 で、千秋って誰?」
「…………あ、お隣さんです」
「お隣?」
「はい」
「そう。 で、親しいの?」
「え?……いえ、あの……声が……うるさいなーって……」
……言えない。
あんな事言われたなんて、言えるわけない。
笑顔のまま、そう答えたあたしを見て、英司がニコッと笑って見せた。
うッ
英司得意の営業スマイルだ。