シュガー&スパイス
「今日は散々だったね」
見ると、携帯を手にした倫子がそう言って眉を下げた。
「でも、なんとかなって本当に良かった」
「佐伯さん、かっこよかったね」
「……」
そうなのだ。
取引先となじみのある英司のおかげで、発注ミスもなんとか期限内に出来ることになった。
無理だと思われてたことも、英司には出来てしまう。
それが、英司が上から買われている要因のひとつ。
スマートな対応が、誰にでも好印象を持たれる。
そして、それを次につなげる力がある人なんだ。
「ほんと……なんてすごい人なんだろ……」
凄すぎて。
あたしには、もったいない人……。
結婚しようって、英司にプロポーズされて舞い上がっていたけど……。
本当に英司は、あたしなんかでいいんだろうか。
それに……。
英司のご両親ともまだ会えていない。
都合が悪くて会えないというのもあるんだろうけど……。
「……」
淹れたてのコーヒーから、立ち上る湯気を見つめて、またひとつため息を零した。
ユラユラ揺れるそれが、今の不安定な気持ちを表してるようでかき消すようにカップに唇を当てた。