シュガー&スパイス
夢と現実
どうやって、服を着て。
どうやって、会社を出たのか
覚えていない。
思い出せない。
ただ、ずっと手が震えてた。
冷たくなった手でキュッと鞄を握りしめて、空を見上げると紅い月はだいぶ傾いていた。
鞄から携帯を取り出すと、それを確認する。
でも、そこには着信を知らせるものは何もなくて。
英司……。
「……」
小さくため息をつくと、重たい一歩を踏み出した。
ヒールの音が、アスファルトに響く。
それが、胸に突き刺さるみたいにあたしを締め付ける。
『別れてくれ』
その言葉が、まるで機械みたいに頭の中で反芻してる。
目眩、しそう……。
駅に向かう中、徐々に行きかう人が増えていく。
肩がぶつかりそうになって、思わずバランスを崩しそうになる。
茫然と歩いてるあたしの事を、迷惑そうに睨んで、その人は過ぎ去っていく。
なにもかも。
夢みてるみたい……。
だって、さっき、英司はあたしを抱こうとしてたのに……。
まだ、体に英司を感じるのに……。