愛しい人～歌姫の涙～
「もしもし」


あまりにもひつこく鳴り響く着信音が私の心地を悪くさせたので、携帯電話を開きわざとらしく怪訝そうな声を出した。


電話の向こう側はやたらと静かで、あまりにも静かすぎて逆に耳鳴りのような音がうるさく感じてしまうくらいだった。


「もしもし」


相手からの返事は無く、まるで異世界からの電話と錯覚するように沈黙を守っていた。


「もしも・・・」


三度目の言葉を遮るように電話は切られてしまった。

静かだった電話の向こう側との世界は断たれ、通話が終了したという音だけが小さく鳴り響き、異世界から現実の世界へと私は連れ戻された。

電話を切り、着信履歴で先ほどの番号を見る。

一体、誰からだったのだろう。

今日、入学したばかりの学校では誰にも教えていないし、そうでなくても私の携帯電話の番号を知っている人物は限りなく最小限になっている。

そのなかの誰かが私の番号を勝手に教えた？

余程の事情があるにせよ、そういう行動に出る場合は私に一言くらいあってもいいだろう。
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