愛しい人~歌姫の涙~
入学してから私の昼食は、由美子がひたすら昨日の出来事や、今日の朝の出来事を話すのを聞くという決まりになりつつあった。

変に話をふってこないので、ある意味で安心して私は水筒のコップに両手を添えて熱いお茶を飲むことができる。

それに話しているときの由美子の仕草が大きく、表情もかなり豊かなので見ていて飽きがこない。


「由香はいつも何を考えているの?」


あまりにもいきなり過ぎて、飲んでいる途中だったお茶を吹き出しそうになった。

それを必死で堪えたあまりについついむせ込んでしまい、教室の一部の生徒からの視線が集まった。


「入学式の日から、ずっと何かを考えているよね」


失礼な言い方だが、いつもの豪快な話し方とは裏腹に意外にも勘は鋭いようだ。



その場しのぎで適当なことを話して誤魔化そうか、何事もなかったかのように話題を変えようかと思った。

高校三年間で何をすればいいのか、何をしたいのかをこんなに考えているなど馬鹿馬鹿しい。



だけど



馬鹿馬鹿しいことでも、そのことを人に話せない私にはなりたくなかった。
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