愛しい人～歌姫の涙～

電話を掛けようか迷ったが、ある花束に書かれている送り主が目に映った。


「送ってきてくれたんだ・・・」


昔のことが無性に懐かしく、少しだけ思い出に浸りたくなり、電話を優しく椅子の上に置いた。



部屋の鍵を閉め、誰にも邪魔されないようにしてからベッドに横たわり、携帯のアドレス帳を眺めた。

中学校三年生の十二月、私は家を飛び出した。

行き先は自分でも分からず、ただあのときは自分を変えてくれるような、心にぐっとくるものを見たかっただけだった。

あの頃の私は、私自身や私を取り巻く環境がとても窮屈でしょうがなかった。



何かが私を変えてくれると思っていた・・・



けれど、私を変えてくれたのは手助けをしてくれたトラックの運転手だった。

正確には、彼は私を変えるきっかけをくれ、変えてくれるのではなく、自分で私を変えることができたのだ。



懐かしい・・・



あの頃の私・・・