愛しい人~歌姫の涙~
「次は福井、福井です」


二時間も電車に揺られるというのは、私が思っていた以上に苦痛ではなかった。

しかし、良い時間とは到底思える時間ではない。



改札を抜けて真っ先に自転車置き場に行き、二日前に父の車で運んできた自転車を見つけ、その目の前で大きく息を吸った。



これからだ・・・



『あのときに旅したからこんな風になれたんだ』


そう思えるように、私は踏み出したここでこれから頑張らなければならないし、それによってあの出来事は意味を持ってくるのだ。



吸った息を大きく吐き、まだ真新しい自転車に腰をかけた。


「道、覚えてるかな」


力強くペダルを踏み、学校へと向かった。
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