歩み
もとはと言えば、家政婦がテレビを付けたから、こんな空気になったのに、何でそんな平気な顔を俺に向けるの?
俺の困った顔がそんなに面白い?
「別に。用が済んだなら早く出てけよ」
顎を使い、部屋から出るように指示をする。
それを見た家政婦からは笑顔が消えて、俺の顔にかかるくらいの深い溜め息をした。
「分かりました。お迎えが来たときに、また呼びに来ます」
「はいはい」
…もう二度と来なくていいよ。
俺は一人で生きていけるのだから。
─…でもこれは勘違いだったのかもしれない。
ベッドから立ち上がり、テレビの前へと移動する。
映画のスクリーンとはいかないが、普通サイズのテレビ画面より、遥かに大きい画面に、親父の顔が映っている。
よく見れば皺さえはっきりと見える。
「うぜーよ…」
透明のテーブルに置かれていたリモコンを手にとり、電源ボタンを強く押した。
凹むくらい、強く。
それと同時に、唇も強く噛み締めた…。