歩み
…あなたは誰?
小林もとびきり可愛いけれど、この人も可愛い。小林とは違うオーラが漂っている。
その人はさらさらなストレートロングの髪の毛を、耳に掛けて、俺に笑顔を向けて鍵を渡してきた。
「え…、あ…ありがとう」
「どういたしまして!」
自分の手の中に戻ってくる自転車の鍵。
鍵が熱く感じた。
彼女は俺にもう一度微笑み、俺の前から去って行った。
胸が熱いよ?この鍵と同じくらい。
彼女は誰だったのだろう?先輩だろうか?
「あれってもしかして…相沢瞳?」
後ろで静かにこう言った沙紀。
その声にびくりと反応をする。
きっと俺は今顔が赤いだろう。
鏡がないと見えない自分でさえ分かる。
沙紀にこんな姿を見せられるワケない。
早く引いてくれよ。
「あ、相沢瞳?」
沙紀に顔を見せないようにして質問をする。
その時思い出した。
『相沢瞳』と聞いて思い出した。
そういえば昨日くらいに誰かが『相沢瞳』の噂をしていたな。
俺は相沢瞳が誰なのか知らなかったから、あまり興味を持たなかったけど、彼女だったんだ。