歩み
こんな痛い思いをするのは嫌だ。
教室間近になると頬は解放されて、沙紀は何事もなかったように元気に挨拶をして教室の中に入って行った。
じんじんと痛む右頬。
沙紀は鬼だな。
右頬を擦りながら、教室の中に入っていく。
そこには優の姿があった。
後ろ姿もかっこいい。
それを見た瞬間、嬉しくてたまらなかった。
「おーっす、優」
元気よく挨拶を優にする。
本当は、昨日のあの表情が頭から焦げ付いて離れないけれど、あえてそれは言わなかった。
今日の態度で考えることにしよう。
隣の小林の席はまだ空席。
まだ小林は来ていないみたいだ。
「鈴木くん、昨日はどうだった?」
沙紀が優に満面な笑顔を向けて聞いてくる。
さっきの表情とはまるで真逆だ。
やっぱり沙紀は鬼だ。
すると優は下を向いて、昨日と同じ表情を見せてきた。
やっぱり優はなにかを隠している。
俺には言えないこと?
そんなに俺は頼りないかな?
「……うん」
「どうした?」
言ってくれよ。
言ってくれなきゃ俺の存在は何なんだよ。