歩み
少しだけ頬を赤く染めてさ、小さく笑う優の横顔が好きだった。
男の俺が言うのは変だけど、憧れもあった。
壊れないで欲しかったのに…。
「あの頃?」
優は首を傾げる。
これ以上優を見ていられなくなった俺は、視線を下へとずらした。
冬は夕日が沈むのが早い。
教室の明るさが奪われていく。
「そう。あの頃。入学したばっかりん時。優が小林を見つめてる時と変わらねぇもん」
無理矢理笑顔なんか作り、あの頃を思い出させようとする。
付き合っていたときの自分自身を取り戻して欲しい。
思い出して?
小林と付き合っててどうだった?
幸せだっただろ?
ずっと付き合っていたいと望んだだろ?
将来を望んだだろ?
だから、だから…
顔を上げて、優を見ると、そこには思い出という名の怪物に襲われている優がいた。
怯えている、思い出に。
まだ鮮明な思い出に、優は怖がっていた。