歩み



感謝するよ、広瀬。
お前がいたから優に笑顔が戻ったんだ。



…そして時は流れる。
いつの間にか、修学旅行のときが来た。
カーテンを開けるとそこには雲ひとつないくらいの青空があった。


天気予報を観ると沖縄は晴れだった。
それだけでテンションが上がってしまう。


この街から早く逃げ出したかった。



俺はキャリーバックを運び、家を出ていく。
その間に何回「行ってらっしゃい」という言葉を聞いたことか。


いちいち言わなくていいのに。
行ってくるのは分かっているのだから、それを何故言葉にして言うのだろう。


今更だけど、分からない。

けど今日くらい「行ってきます」と言ってあげようかな。


今日は機嫌がいいしね。


「歩さん、車の用意が出来ました。荷物、運びます」




富田は俺が持っていたキャリーバックを受け取る。


「ありがとう」とお礼を言った俺に少しだけ驚いている富田。



それもそうだろう。
俺はあまり「ありがとう」と言わないから。



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