歩み
その光景を見た俺は信じられなくて、目を擦ってもう一度優を見た。
けれどこれは現実の世界。
嘘の世界ではない。
だから目を開けたときは、さきほどの光景の続きだった。
目の前には優がいる。
どうしよう?なんて言えばいいのかな。
『おはよう』が出てこない。
けど話さなきゃ変だと思われる。
「おはよ、今日暑くね?」
俺はわざとらしく手を団扇代わりにして、こう言った。
下手な嘘くらいわかっている。
優に分からなければそれでいいんだよ。
「まじ暑い~でも晴れてよかったな」
優は上を見上げる。
上には透明な天井。
そこから見える青色。
優の横顔を見ると、やはり先ほどのことは気付いていないようだった。
屈託のない優の笑顔がそう語っていたのだ。
小林のことを忘れろなんて言わないよ。
けど過去があるから今があるんだ。
小林を幸せにしたいと思ったから、広瀬を幸せにしてあげられたんだよ、優。
俺はここの場所に来ると必ず思い出してしまうよ。
お前の透明な涙を…。