歩み
沙紀たちの部屋は俺たちの部屋と変わらなかった。
変わると言ったら、ベッドの向きくらい。
「沙紀~、夜景みた?やばくね?」
俺はカーテンを勝手に開けて、また夜景を見る。やはり綺麗だ。
「見たよ!綺麗だよね」
隣に来て、笑顔で俺を見る沙紀。
この笑顔が見たかったんだ。
「あれ?沙紀、ナナは?」
そういえば部屋に広瀬の姿はなかった。
どこに行ったのだろう?広瀬の存在にいち早く気付いたのは優だった。
「あ~さっき風にあたりにいくって言って、外出てったよ?」
「こんな時間に?」
優が心配するのも分かる。
外は暗く、月明かりしかないからだ。
「俺、ナナ探してくる。悪いな」
そう言って勢いよく部屋を出ていく優。
その後ろ姿が逞しくてたまらない。
「行ってこい!」
背中を押したかった。
優の進む道に幸せがあればいいと思ったんだ。
優なら大丈夫。
月明かりが広瀬のいる場所まで導いてくれるから。
優と広瀬の心が繋がって欲しい。
この願いは叶ったんだ。
けど優は気付いていたんじゃないのか?
空に浮かぶ月が紅いということに。
高い波がもうすぐそこに来ていると。
この日、優と広瀬が恋人同士となったんだ。
俺は飛んで喜んだのを覚えている。
咲く笑顔。
優の笑顔は彼女が咲かせた。
けれど、水をあげすぎたのだろう。
また、萎んでしまったんだ…。