歩み
~1.出逢いの春~
誰が決めつけたのだろう?
《春は出逢いの季節》だと。
そんなのくだらない例え話だと思っていた。
けど、信じてみようと思う。
それは、お前に出逢ったから…。
…朝、俺はこの音でいつも目が覚める。
もういいよ、と言いたくなるくらい鳴り続ける電話の着信音。
この音が世界一嫌いかもしれない。
鳥の囀ずりで、目覚めたことなどない。
気分よく目覚めたことなどない。
いつも、一緒。
この、あいつからかかってくる着信音だ。
相手など電話に出なくても、もう分かる。
けど出ないとまたかかってくる。
その繰り返しだ。
俺は渋々、眠たい目を擦りながら、眉間に皺を寄せて、近くに置いてあった白い子機の電話を取って、音の鳴り響きを阻止した。
そして子機を耳にあてる。
《歩さん、おはようございます。今から朝食を運ばせます》
そう。
俺の名前は斉藤歩。
「富田、いちいち電話してこなくていいから」
《そう言われましても…私は歩さんの世話係ですから》