歩み
沙紀に近づき、勢いよく沙紀の手を引っ張る。
誰も見んなよ。
これは秘密なのだから。
もう、黙れよ。
「…え…」
目に涙を浮かべて、驚いた表情を見せる沙紀。
驚くのも無理はない。
俺と沙紀の距離は数センチなのだから。
両手で沙紀の顔を包み込み、顔を傾ける。
体育館から聞こえてくる、司の声。
今はきっと生徒会長の挨拶の最中なのだろう。
司、悪いな。
お前より先に奪うから。
沙紀の《初めて》を。
瞼を閉じていく。
なぜこの時、沙紀は俺の体を離さなかったのだろう。
離せる余裕はあったはずなのに。
「…黙れよ」
お前はバカだよ。
簡単に奪われるのだから。
俺は沙紀の唇に自分の唇を押し当てた。
なんて柔らかい感触なのだろう。
これが、キス?
実は俺も初めてだったりする。
なぁ、沙紀。
なんか反応しろよ。
「嫌だ」とか、
「離して」とか、
「やめて」とか。
なんか言ってよ。
言わないとずっとするよ?