歩み
俺は何度も沙紀の唇に自分の唇を押し当てた。
なにか反応をして欲しくて、何回もした。
けど沙紀からの反応はなかなかない。
沙紀が心配になった俺は、沙紀を徐々に離し、顔を覗く。
「なんか、言えば?
もしかして言えないくらい良かったの?」
鼻で笑って沙紀を見つめる俺。
沙紀を見ると俺の体は硬直をした。
どうして?
なんで?
なんでお前は泣いているの?
泣き止んだと思ったのに、沙紀の瞳からはさっきより大粒の涙が流れていた。
嫌なら…、泣くくらい嫌なら、なんでもっと早くに言わないんだよ。
後悔が、また俺を襲う。
「な…んで…」
ワケが分からなくなった俺は、沙紀から一歩後退りしてしまう。
これ以上、沙紀に触れてはダメだと思った俺は、沙紀の頬から手を離した。
「…意地悪…」
この一言が、俺の心を突き刺した。
ナイフのような鋭い刃物に突き刺された感じ。
傷は深く、なかなか抜けてはくれない。
意地悪。
意地悪だったかもしれない。
けど、幸せだと感じた瞬間でもあった。