歩み
苦しかったよな。
不安だったよな。
ごめん、ごめんね…
「沙紀…」
俺はしゃがみこむ沙紀に近づいていく。
そっと触れようとした瞬間、沙紀が下を向いたまま喋り出した。
止まる手。
俺たちの距離に風が吹き抜けていく…。
「私ね?百合が大好きな苺を沢山使ってケーキ…焼いたの。百合に喜んでもらいたくて…。18本…ろうそくも用意したよ…。ねぇ…歩…これだけじゃ百合は喜んでくれないかな…」
アスファルトに水玉模様が描かれていく。
沙紀から流れ落ちた涙の跡だ。
滅多に泣かない沙紀が、今俺の前で泣いている。
「沙紀…」
俺は包み込むように、沙紀を抱いた。
安心させるように。
泣くな、泣くなよ…。
「…歩!!私…私…!!」
俺の腕の中で、泣きわめく沙紀。
俺は沙紀の体をぎゅっと抱きしめて、現実を受け止めた…。
「沙紀…小林は生きている。俺たちの心の中で…」