歩み
どうして?
なぜ震えているの?
俺が触ったから?
そんなに俺のことが嫌い?そして憎い?
俺がこの世界、空、親父を憎むように、沙紀は俺のことが憎い?
キスしたから?
それが原因?
しばらく放心状態になっていると、沙紀が俺の顔を見てきた。
その瞳は、さっきまでの瞳と全然違っていた。
今にも泣きそうな表情をして、瞳は少しだけ潤っている。
そして静かに口を開いた。
「…離して…」
その声は弱々しく、離さないと倒れてしまいそうなくらいだった。
ねぇ、なんでそんな瞳で俺を見るの?
なにも出来なくなった無力な俺は、力の抜けた手を沙紀の腕から離した。
小走りで俺の前からいなくなっていく沙紀。
漂う甘い香りが、
見え始めた恋の終わりを示しているようだった。
甘い香りが、
俺に恋は甘くないのだと教えてくれているようだった。