歩み
良かったな、親父。
出来のいい秘書がいて。
まんまと俺は富田に騙されたけれど。
「あと一つだけ頼みがある!」
人差し指を出して、富田にお願いをする俺。
これくらいお願いしてもいいよな?
「なんですか?」
富田は手帳をぱたんと閉めて、再び黒渕メガネをはめた。
その瞬間、大人の男だと感じたのは俺だけかな?
メガネから覗く、瞳が綺麗で、誰もが富田に恋心を抱くだろう。
女性限定だけど。
俺はそんな趣味ないし。
「親父には言わないでくれ」
親父に知られたら厄介だ。
また富田が責められるかもしれないし。
俺の自己中心的な発言で富田が怒られるのはこっちからしても後味が悪い。
「もちろんですよ。
先生には言いません。だから僕の顔に泥を塗るようなことはしないでくださいね」
「分かったよ。絶対3位までに入ってやるから見とけ。あ、ちなみに色は黒な!」
富田に背を向けて秘書室から出ていこうとしたとき、背後から富田の声が聞こえてきた。