歩み
あんなにも穏やかだった富田の声は初めて聞いた。
きっとこれは俺が変わり始めたことに気付いてくれたのかもしれない。
気候が穏やかだったのか、春風が優しかったのか、俺には分からないけど、少しずつ動いていたんだ。
心が、感情が、恋が…。
そして運命も。
俺はゆっくりと後ろを振り返る。
窓から覗く太陽の逆光のせいで富田の顔がはっきりと見えない。
「初めて見ましたよ。
歩さんが僕に生き生きとお話される姿を。それはきっと歩さんの中で何かが変わり始めている証拠なんですね…」
「…富田…」
自分では分からないことを他人は知ることが出来る。
まさに今がそう。
変わり始めたいと思っていたが、もう変わり始めているなんて思ってもいなかった。
些細なことが人を変化させる。
「今の歩さん、今まで見てきた表情の中で一番輝いていますよ…」
「なに言ってんの?辛気くさいな。俺はもっと輝くって!」
輝いてやるさ。
この太陽のように、俺はお前の光になりたいから。