歩み
…翌日。
また今日もいつもと同じ朝。
違う朝を体験してみたい。
まぁ、無理な話だけど。
俺は手を伸ばして、子機を取る。
目を擦りながら体を起こし、耳に子機を当てる。
電話の相手は当然富田だと思っていた。
「はいはい。今日は何時に迎え?」
《歩…か?》
その声を聞いた瞬間、子機が手から抜けていった。
力が抜けたのか、脳が働かなくなったのか、分からない。
「…なんで?」
当然富田だと思っていた。
けど聞こえてきた声は、俺の大嫌いな声だった。
日本にいないんじゃなかったの?
どうして?
朝から聞きたくなかった。
こいつの声を聞くくらいなら、まだうるさいくらいの着信の音の方がマシだ。
するとドアが数回ノックされた。
「失礼します。歩さん、通話中ですか?今電話かけたのですが話し中になったもので」
まだ、震えている。
なんだよ、この震え。
それくらい拒否っているということなのだろうか。
「…歩さん、どうかされました?」