歩み


ここで電話に出なかったらさらに富田は責められることとなるだろう。
そう思うと自分のことのように辛くなってくる。

俺はシーツをぎゅっと握りしめて、震える手を操り、子機を握る。


荒れる息。
まるで喘息のよう。
呼吸を落ち着かせて、耳に子機を当てた。



「…はい」



《歩か?昨日はなにをしていた?ちゃんと勉強しているのか?》



昨日はちゃんと勉強をしましたよ。
だって《約束》をしたから。


「してるって。用はそれだけ?」



こんな強気な態度をしているが、内心は怯えていた。
富田は分かったかな?

ほら、手汗がこんなにもひどいよ。


《受験はもう始まっているんだ。今までのような順位をまたとったらどうなるか分かっているな?》


またあの刑ですか。
あの刑とは一ヶ月外出禁止。
家から外に出てはいけない。
学校以外、富田に監視される生活を送るのだ。
去年の秋にこの刑を受けて、精神的苦痛を感じた。

だって、家にいるときは常に勉強だよ?
そりゃストレスが溜まるに決まっている。



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