夫婦の始まりは一夜の過ちから。
□Designation
「中谷くんいる?」
そう言ってオフィスをぐるり見渡す上司。
女部下に対し君付けで呼ぶなんて有りがちにもほどがあるーー、なんて思ってはや5年。
5年も過ぎれば上司からの君呼びも慣れ不思議な気分もならないこの頃。
「なんですか?」
「あー、いたいた。中谷くんがいて良かったよ。早速だけど今晩ある接待の同行してもらいたいんだ。急きょ出るはずだった子が出れなくなってね。他に同行できそうな子もいなくて」
今夜の接待って確か…。
ホワイトボードに書いてある文字を思い出す。
「そういう事だから宜しく頼むよ。中谷くんには期待してるからね!」
私の返事を聞かずに上機嫌で上司は外回りに行ってしまった。
返事を聞かずになんて思ったけれど部下である以上、どんな要望に対してもイエスしか言えない。
ノーなんて言うものならリストラ候補に上がるだけ。
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