泣いていたのは、僕だった。


―隆side―



苛立っているときの煙草は、すぐ灰になる。
空になった煙草のボックスを一箱握りつぶした。


「ちっ…もう切らしちまった。」


あいにく代えは持ち合わせていない。
かと言って買いに行く暇はない。


煙草を諦めて、携帯のディスプレイを見る。

――二時二十分。


奴が動き出すなら、そろそろだろう。

矢代 創……。


今ならまだ……。


「あのぉ」
「わ!?」


背後から至近距離で声がして、俺はたじろぎながら振り向く。

「な、んだよ…お前」



俺に声をかけてきたのは、長身のやたら怪しい男だった。



「いやぁ、すみません。実はライターを忘れてしまいまして。火、持ってませんか?」
「……は?」
「だから火ですよ、火。」
「あ、ああ…」


何なんだ、コイツは?
怪しすぎんだろ。



俺はジーンズのポケットからライターを取り出し、投げ渡した。



「どーも。助かります。」



男は煙草に火をつけ、ライターを投げ返してきた。


< 12 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop