泣いていたのは、僕だった。
―隆side―
苛立っているときの煙草は、すぐ灰になる。
空になった煙草のボックスを一箱握りつぶした。
「ちっ…もう切らしちまった。」
あいにく代えは持ち合わせていない。
かと言って買いに行く暇はない。
煙草を諦めて、携帯のディスプレイを見る。
――二時二十分。
奴が動き出すなら、そろそろだろう。
矢代 創……。
今ならまだ……。
「あのぉ」
「わ!?」
背後から至近距離で声がして、俺はたじろぎながら振り向く。
「な、んだよ…お前」
俺に声をかけてきたのは、長身のやたら怪しい男だった。
「いやぁ、すみません。実はライターを忘れてしまいまして。火、持ってませんか?」
「……は?」
「だから火ですよ、火。」
「あ、ああ…」
何なんだ、コイツは?
怪しすぎんだろ。
俺はジーンズのポケットからライターを取り出し、投げ渡した。
「どーも。助かります。」
男は煙草に火をつけ、ライターを投げ返してきた。