泣いていたのは、僕だった。
男が煙草を吸い終えると同時に、複数の足音が聞こえてきた。
――なんだ?
「君、待ちなさい!」
「誰が待つか!ばーか!!」
向かって走ってくるのは懐中電灯を手にした数人の警官と、その光に照らされた若い青年だった。
「あれ?翔一…何してるの?」
男が走ってくる青年に呑気に声をかけた。
「真司、ナイスタイミング!」
この男、真司って名前なのか…
翔一という青年は真司の背に隠れた。
「おっと……」
「真司助けてくれよ。」
懐中電灯が彼らを照らす。
真司は、両手をあげて肩を竦めた。
「えーっと…とりあえずごめんなさい。」
コイツ…
絶対ふざけてやがる。
「君、そこの子供を渡しなさい。」
「誰が子供だ!!十九だぜ、十九!!」
ガキじゃん…。
俺は心で突っ込みつつ、彼らのやり取りをただ見ていた。
「あのぉ僕たち怪しいものじゃないんで」
「そーだ、そーだ!」
ふざけるな、と警官たちは一歩詰め寄った。
「今、この近辺に凶悪犯が潜んでいる。速やかに立ち去りなさい。」
「って言われても…困ったなぁ……。」
真司の方はグシャグシャと頭を掻いた。
「あ、皆保(ミナホ)警部とかいませんか?」
「何?お前警部の知り合いか?」
「知り合いと言いますか……警部の頼みで僕達ここに居るんで」
「警部の?……ってことはお前、古林 真司か?」
「はぁ、まぁ、そうですが」
一斉に警官が敬礼を始めた。