泣いていたのは、僕だった。
「馬鹿だろ、お前。怖いなら怖いって言えばいいだろ。生きたいなら生きたいって言えばいいじゃないか。」
「………僕は怖くなんてない。翔一に殺されるなら悔いはないだ。」
「じゃあ何で震えてんだ?死ぬのが怖くない人間なんて、いる訳ないだろ。」
真司の体が微かに反応した。
「誰だって怖いんだ。それが、人の弱さって奴だろ?」
真司の手が俺の手から離れ、背中に回された。
近くなった体温は、さっきより儚げに思えた。
「俺は嫌だ。まだ真司を殺す“いつか”じゃない。まだ…真司は殺せない。」
「僕が翔一を殺してしまうかもしれないよ?」
「そう簡単にやられるほど柔じゃねーよ。もちろん創も隆も。前にも言ったろ?」
「そう、だったね。」
顔は見えないけど、微笑んでるんだって分かった。
「お前は守り方が分からないって言ったけど、俺は守ってもらわなくても平気だ。守ってもらう必要なんてないんだよ。」
「………………」
「それじゃダメか?」
「一つだけ誓って。」
「ん?」
「……僕より、先に死なないって。」
「分かったよ。約束してやる。」
安心しろと伝えたくて、背中に回した腕で軽く叩いた。
「おめーら、野郎同士で抱き合ってんじゃねーよ。気色悪ぃな。」
声が聞こえて、俺と真司は入口に振り返る。
そこには傷だらけの創と、創を支えて立つ隆の姿があった。
「隆!創!!」
慌てて駆け寄る。
「創、大丈夫か?」
「ええ、なんとか。ちょっとやられすぎましたけどね。」
笑った創だけど傷に響いたようで、眉間にしわを寄せた。
「こっちも大変だったんだぜ。変な連中に襲われてよ。」
「よくここが分かったね?」
「静から連絡あったからな。この周辺の奴らは片付けといたぜ。あ、殺してないからな。気絶させただけだ。」
そこまで言って、隆は倒れている静に目を向けた。
「決着ついたか。」
「うん。」
「帰るか。」
「うん。」
頷いた真司の表情は見えなかった。
真司は帰路で皆保のおっちゃんに連絡を入れていた。
おっちゃんの声が怒っているのが分かったけど、真司はごめんとしか言わなかった。