泣いていたのは、僕だった。

翔一side


目を開けたら無機質な白い天井が見えた。
身体はどうやらベッドに沈んでいるようだ。

「……おかしいな」
「何が?」

――!?


俺が呟いたその横で、疑問の声が聞こえた。

慌てて上半身を起こす。
同時に腹に痛みが走った。


「まだ起きない方がいいかも。結構やられてたよ。」


のんびり発せられた言葉。

横に目をやると、笑う男の顔があった。
ニコニコ笑う顔は、人が良さそうだった。
椅子に座り、背凭れに両手を乗せ煙草を吸っている。


「一応湿布とか貼ってみたけど、効くかは分かんない。ごめんね、僕こういうの詳しくないから。」


確かに身体の至る所に湿布が貼られている。



「あ、ここ僕ん家ね。汚くはないでしょ?物ないし。」
「……どうして助けた?」


ペラペラ喋る男なのに、肝心なことは訊いてこない。


「さぁ?」
「さぁってお前……」
「死にたかった?」


男の笑顔が崩れることはない。


「ああ……死にたかった。」
「だから助けた。」
「は?」
「どーでもいいじゃない。そんな事は」


体を伸ばして、男は立ち上がる。
思ったより身長が高かった。


「今、生きてるんだからさ。」


それは俺への言葉なのか、自分への言葉だったのか。

ただ一瞬、その顔に浮かぶ笑みが消えた気がした。


「そんなのはお前の勝手だ。」
「そうかもねぇ。あ、僕は真司(シンジ)。よろしくね。」

吸っていた煙草を消して、真司は新しい煙草に火をつけた。


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