泣いていたのは、僕だった。

side創



―創side―




隆と翔一が仕事へ行ってから一時間。


掃除が一段落した僕は、椅子に腰掛けコーヒーに口を付ける。

向かいでは真司が同じくコーヒーを優雅に飲んでいた。


「創くんのコーヒーは美味しいね。」
「ありがとうございます。…二人とも無事でしょうか。」
「そんなに心配する事ないよ。」


煙草の煙を吐き出して、真司はのんびりと言う。


「それより聞きたいことあるんだよね。」
「なんですか?」
「隆くんのこと。」
「隆の?」


正直意外な質問だった。

まるで他人には無関心な彼が、人のことを気にするなんて。


「残念ですが、僕も彼を詳しくは知らないんです。彼と出会ったのは、ほんの二年前の事ですから…」
「知ってることだけでいいよ。」



笑っているこの顔は一体何を考えてるのか…。



「隆は……関東一の極道、櫻井組の跡取りなんです。」


だけど僕は真司を信じてみようと、話し始めた。
僕が知る限りのことを。


「彼自身最初から跡を継ぐ気はなかったみたいです。普通の暮らしをして生きていきたいと幼少期から思っていた、と言っていました。」



真司は何か言うことも、頷く事もしないでただ聞いていた。



「隆が家を出るきっかけとなったのは、ある事件だそうです。跡を継ぐ気はないと言っても、一人息子であることには変わりありませんからね。格好の標的だったんでしょう。」



真司は煙を吐き出して、


「誘拐か」


と呟いた。

僕は頷く。



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