泣いていたのは、僕だった。
「誘拐自体は珍しい事じゃなかったらしいんですが…その日は運悪く友人達も一緒にいたんだそうです。」
「なるほどねぇ。みんなで誘拐されちゃったわけね。」
「ええ……。そして彼の友人達は、目の前で殺されたそうです。隆だけが生き残った。」
真司は煙草を吸い終えた。
「誘拐犯にとって必要なのは隆だけだったんでしょう。邪魔になったんでしょうね、他の子供達は。友人が目の前で死ぬ、中学生だった彼には残酷な出来事だった。」
以前、隆が僕に話してくれたとき、彼は今にも泣き出しそうだった。
「僕と出会ったとき、彼は生きようか死のうか悩んでいました。だから僕は……生きろと彼に言った。」
あの時彼は本当に死んでしまいそうだったから。
「けれど僕は間違ったことを言ってしまったのでしょうか。」
「どうして?」
「彼は生きながらも、まだ苦しんでいるからです。もしかしたら死んだ方が楽になれたのかも……」
真司は新しい煙草を手にした。
「隆くんに死んでほしい?」
「そんなことはないです。」
「じゃあいいじゃない。それに何かを抱えてるのは隆くんだけじゃない。」
笑っていた顔が笑みを消した。
「創くんも翔一も何かを抱えてる。……僕もね。」
その目は一体どこを見ているのか。
「真司、今度はアナタのことを教えてください。翔一のことも。」
真司が僕を見た。
今、初めて彼の視線に捕らわれた気がした。