泣いていたのは、僕だった。


「それが翔一との出会いですか?」
「うん。最初は手がつけられなかったよ。睨むし、傷の手当てはさせてくれないし、昼夜構わず殺そうとしてくるしね。」
「あの翔一が……?」


想像つかない。

あんなに人懐っこい性格なのに。


「まぁ、仕方なかったんだけどね。あの時翔一は名前しか持ってなかったから。」
「?」
「翔一はね、自分の名前以外全て投げ捨てた。過去も未来も、命も……あの日にね。」



おもむろに真司は立ち上がった。


「僕の所有物である限り、翔一は死ぬことも許されない。僕を殺そうとするのは、」
「…………」
「自由に生きるためか、あるいは…自由に死ぬためか。それは僕にも分からないな。」


肩をすくめた彼はドアに向かって歩き出した。


「煙草が切れたから買ってくるよ。」
「待ってください。まだアナタのことを話してもらっていないですよ。」


その時、肩越しに振り向いた視線。

それはあまりにも冷たくて、


「僕のことを知る必要はないよ。」


誰も寄せ付けない
誰も信じない


そう語られているようだった。

「僕自身を語れるほど、僕は自分のことを知っちゃいない。」

一体何を見てきたら、


そんなにも絶望の色で世界を見れるのだろう…。



出て行く背を呼び止めることは出来なかった。




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