泣いていたのは、僕だった。

side隆



―隆side―



車を走らせ40分、後藤の潜伏先と思われるアパートへ到着した。


「ここか…」


古びた、いかにも怪しいアパートだ。


「206号室だってさ。」


資料に目を通しながら翔一が言う。


軋む階段を上がって突き当たり、『206』のプレート。
表札はなかった。



「さて、正面から行くか……回り道して―――」
「えいっ」



俺が言い終える前に翔一がチャイムを押してしまった。


「お前ね、もうちょっと考えて行動しようぜ…」
「いーじゃん。ごちゃごちゃ面倒だし」
「あー、はいはい」



これだからガキは……



チャイムに誰かが応答することはなく、代わりにドアが少し開いた。


「?」


ドアの奥を見据えても誰もいない。


「おじちゃん誰?」
「あ?」


声は足元から。

視線を落とすとドアの隙間から、幼い少女の顔が覗いている。


俺と翔一はお互い顔を見合わせた。

先に口を開いたのは翔一だった。


「後藤って女だったのか?しかも子供?」
「バカ言うな。んなわけあるか」
「だよな…」


ははは、と翔一は笑って少女と同じ目線の高さまでしゃがんだ。



「俺、翔一。お前は?」
「絢音(アヤネ)」
「絢音はここに住んでんのか?」
「うん」


人懐っこいのか、絢音は笑顔を絶やさない。


「さすがお子様。子供とすぐ打ち解けれんだな。」
「うるせーよ!ガキじゃねーし!!で、他に人いないの?」



絢音は首を横に振った。


「今はいない。」
「今は?いつもはいるのか?」
「うん。パパと一緒に住んでるの。」


それが後藤か。

にしても……
子供いるなんて書いてなかったじゃねーか…。



「絢音の父さん、いつ帰ってくるかとか分かんねーの?」
「うん。」


笑っていた絢音の顔が曇った。


「そっか……。隆、どうする?」
「どうするったって……どうする?」



予想外の展開に頭を抱える俺達を、絢音は首を傾げて見上げていた。



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